第七十二話「最後の朝」 1999年8月9日05:00 日本 珠洲 狼煙館其の弐柔壱 |
そんなワケでゲシュケは戦後は、無事にドイツに戻り通訳の仕事についたゲシュケは世界中をまたにかけて飛び回った。 もちろんその間、何度か日本に立ち寄ったこともあった。 今までの自分の予知能力をさらに開発すために、独自に研究を重ね、それが実を結んだのは初老に差し掛かったころだった。 メンドくさくなってきたので、ゲシュケの半生記はココらへんで終わりにしたいが、、、、 ...とにかく高名な預言者シレトコダムス(父方の姓名)としてアラスカに居を構えたのだった。 (ハショリ過ぎだし無理があるよ、ミケくん(^_^;)ゞ ゲシュケは魘されて、過去の記憶に魘されて苦しそうに寝返りをうった。 大声を上げて起き上がると、ゲシュケは背中がびしょりと汗ににまみれているのに気づいた。 額に粒となって滴る汗を右手で拭うと、傍らの時計を見た、 点滅する緑のデジタルの数字は5:15を表示していた。 起きる時間は8時。明日は非番なのだが、普段通りの時間に起き鳴ければならなかった。 窓の下側の磨りガラスから薄く朝日が差し込んできたのを見つめていた。 物音ひとつ聞こえず、それは最期の夏の始まりだった。 何かを振払うように目を二三度擦ると、布団を頭まで被って眠ろうとした。 時計の針が8時を廻ったころ松の間であつこが目を覚ました。少し離れた所にHirokoが寝息を立てていた。 クロネコはひと足早く起き抜け、すでに奥能登の早朝の涼しい空気を満喫しに散策に出ていた。 ミケくんが目を覚ました時には、強い夏の日差しが部屋に忍び込み始めているころだった。 すでに梅の間ではたつゆきとKMがモゾモゾと起きだして着替えを済ませていた。 今日もすこぶる付きで能登は晴天に恵まれているようだった。 最期の夏が始まったのだ。 半ば開け放たれたドアからあつこが顔を覗かせていた。 「ほら、そろそろ起きないとSakaさんたち待ってるよー海で」 九時を過ぎるころ、隣の竹の間からも慌ただしく荷物をまとめる気配が伝わってきた。 ミケくんが顔を洗いに竹の間の前を通りかかると、おそらくSakaと携帯で話している団著の声が部屋の中から聞こえてきた。 「あ、だいじょうぶです、もう出るトコロですから・・」 ミケくんが見ると団長は布団の中で伸びをしながらテキト〜こいていた。 布団から顔だけ出している目の下に澳のできた生気のない虚ろな表情とは裏腹に、声だけがいかにもスタンバッてやる気マンマンだった。 この日狼煙町では、早くも太陽は燦々を輝き、青空を縫うように細かく雲の流れる様が竹の間の窓の映っていた。 「さぁ〜今日も泳ぐぞおお〜〜!」MBXが早くもテンパって浮袋を腰に巻いて気を吐いていた。 電話を切った団長は、急に声が変りMBXに顔を向けた。 「・・・MBXさん、元気ですねぇ」 「やっぱり天気のいいときには、外で遊ばないと」ι(*^^)々 MBXはいつになくハイテンションで笑った。 全員がぞろぞろと、支度を整えて竹の間に集まってきた。 KMが忘れ物はないかと、辺りをキョロキョロと見回っていた。 あつこは慣れない手つきで浮輪を膨らませて、少しでも時間を節約したいような面持ちだった。 ゲシュケは、大きく声をあげると慌てて蒲団から跳ね起きた。 傍らの目覚まし時計は、セットした時間を大きく廻っていた。 軽装を拾い上げると、舌打ちをしながら急いで身に付けた。 バッグの中を覗き込んで、中の物を手でかき混ぜながらゲシュケは確認をしていた。 おもむろにバッグを持って立ち上がると、彼は大股で部屋を横切って狼煙館の玄関に向かった。 靴を履きながら階段の方を振り返ると、今や遅しとカニカニ団が降りてきそうだったので、足早に格子戸を開けて外に飛びだした。 あっと云う間に真夏の日差しが襲い掛かる、熱気が渦になって目の前の海の上に煙って見えた。 彼は黒塗りの車のドアに手をかけると悲鳴を上げた。 太陽に熱せられたドアに触れたとたんに火傷をするような痛みが走った。 慌てて、その手を振りながら運転席に滑り込むと、ゲシュケは年不相応な俊敏な動作でエンジンをかけた。 黒塗りの車は唸りを上げて、狼煙町の海岸通りに飛びだして行った。 その10分後、ようやくカニカニ団が大声で騒ぎながら階段を降りて来た。 昨日に引き続き死んだ魚の目に眠たそうな面持ちのカニカニ団であった。 精算している間に、ミケくんは探検をしてみようと思った。 一階の人気のない部屋を次々開けては怖えぇええとか云いながら見て回っていた。 一階は客が宿泊していないのか、ひっそりとして冷気の様なものが立ちこめていた。 無事精算も終わり、皆が靴を履いてヘミングウェイ海岸に向かおうとした矢先、 旅館の女将が旅の記念にと、これまた絨緞と双子のような真っ赤なペナントを皆に手渡した。 銘々女将に礼を云うと、ニッコリ笑って女将は見送ってくれた。 「良い旅を、お気を付けて」 |