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第七十伍話「お・・・おまいはっっ・・・・・・・・?!(<●> <●>;)」
1999年8月9日12:00 日本 珠洲 ヘミングウェイ海岸其の柔笈
とりあえずゼンソン号にキ〜を差し込みエンジンをかけてみた。
この駐車位置では後部ハッチが開かないので、少し前に出す必要があったからだった。
位置修正を終えて満面の笑顔で車から降りてくるミケくんの前にSakaが居た。
「この方が開けてくれたんだよ、ミケくん」紹介されたゲシュケが苦笑いを浮かべながらミケくんの前に出た。
「こりゃどうも、お世話に・・・」顔を上げたミケくんの目に映った男の表情に言葉が止ってしまった。
ゲシュケはニヤリと不敵な笑みを見せると、フランス語訛りの微かに香る威厳のある声で呟いた。
「戸締まり用心も行き過ぎはダメだおっ、アンタっっっっっ!!」
暑さで遠のく意識の中で、訳もわからぬまま・・・そう聞こえたような気がした・・・・
「・・・え?」KMがそれを聞きとがめてゲシュケを見た。
ミケくんの頭の中でもの凄い速さで記憶の糸が解かれていった。
あの来るものをすべて拒み、何もかもが凍てつくような氷の大地、灰色の空に七色に輝くオ〜ロラの降ってくるような異次元空間、
辛く悲惨だったアラスカ極点調査の記憶が走馬灯のように駆け巡った。
その場を取り囲むようにして見守っていたカニカニ団も異様なフイイキを肌で感じ取って身じろぎをした。
「お・・・おまいはっっ・・・・・・・・?!(<●> <●>;)シ・・・シレトコダムス」呆然としてミケくんが叫んだ。
「コラさん、誰やねんなシレトコダムスって?」KMがズズイと後ろから顔を覗かせた。
男は無言で笑うと(* ̄∀ ̄)ニァ、その場を黙って立ち去ろうとした。
「なぜココに居るんだぁあ、あんた」ミケくんは草に足を取られながらゲシュケの後を追った。
「ねぃねぃ、シレトコダムスって誰?」あつこ団長に尋ねた。
「ぜんぜんワカらん、話が・・・」団長はキツネに抓まれたような顔をしていた。
「ミケくんの知りあいなの?何者なんだ?やっぱり、なんか変だと思ったんだよ」Sakaが傍らのheadsに尋いた。
ゲシュケは勝ち誇ったように一度だけ振り返ると、草むらを蹴ってイキナシ走り出した。
「あ、、逃げるぞ、」MBXが叫んだ。
とは云ったものの、あまりにもワケワカなのでカニカニ団の隊員たちは果たしてどうしたものかと考えあぐねていた。
ゾロゾロとゲシュケのあとを付いて行くと云った具合に、追いかけて行った。
気配で感じたのだろうか、ゲシュケは急に足を速めた。
「をい、なんでこんなトコに来てるんだぁあ」ミケくんが追いすがってゲシュケの襟首を掴んだ。
「離せっっっっ、この野郎」ミケくんの上腕にゲシュケの一撃が当たってよろめいた。
バランスを失ってミケくんは柔らかな草むらに思いっきり倒れこんだ。
妙に落ち着いていて、ミケくんは大地に焦げるような夏の匂いと太陽の燃えるような息吹を体中に感じた。
「ミケくん、大丈夫?」心配そうにあつこが覗き込む
ミケくんの傍らを隊員たちが通り過ぎて行く。
「ミケくん、あいつのコト知ってんの?」Saka が納得いかないような面持ちで尋ねた。
「あいつ、なぜココに、」そう云うとミケくんはすぐに跳ね起きると、再びゲシュケの後を追いだした。
ゲシュケは逃げながら自分の車を探した。・・マズいことになった。
緑深い草むらのなかから青いバッタがひと跳ねしてゲシュケの行く手を遮った。
あたかも空気の匂いを嗅ぐようにして、木立の中に熱気に霞むんでいる自分の黒塗りの車を見つけた。
カニカニ団の隊員たちがゲシュケに追いついたのは、ゲシュケが車の鍵をポケットの中に探っている時だった。
あつことHirokoは突然の珍騒動に息を飲んで様子を遠巻きに見守っていた。
「・・なんでココに居んの?あんた」息を切らせてヨロヨロとミケくんが近づいて尋ねた。
ゲシュケは無言で、自分の車のドアに手をかけた。
その時だった。
追いかけてきた隊員のKMが車を覗き込んで驚いたようにのけぞった。
「車の中に人が居るぞ」縛られて車内にコロがっている汗ダルマを見つけてMBXが叫んだ。
Sakaが近づくなり顔色を変え言葉を失った。
「社長じゃないか、この人。いったい・・・」
砂利を蹴る音がしてバタバタと隊員たちがその車に駆け寄った。
headsが車の窓を叩いくと座席に猿轡を噛まされてコロがっている社長が苦しそうに目を開けた。
ゲシュケの車をちょうど隊員たちが取り囲む格好になっていた。
「わはは、シャレだシャレ」開き直ってゲシュケが平然と喚いた。
「シャレになんねぇ〜〜つの」MBXとheadsがゲシュケに躍り掛かった。
素早くゲシュケは身を翻すと二人の攻撃を躱し、乱暴に運転席のドアを開けた。
両側からSakaとたつゆきが後部座席のドアを開け、縛られて横たわっている汗まみれの社長を引きずり出した。
団員の腕を振り払うと、身軽に座席に潜り込み、ゲシュケがイグニッションを廻した。
呼応するように激しい大排気量のエンジンが唸りをあげた。
車に纏わり付いていた団員たちは、一瞬怯んで飛びのいた。
けたたましいエンジンの咆哮が静かなヘミングウェイ海岸の駐車場に響いた。


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