鉱石ラジオ
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2001年1月製作

【使用真空管】 なし

【寸法】 幅250mm、高さ235mm、奥行170mm
(突起物含まず)

【材質】 桂無垢材、シェラックニス仕上

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もう数年前になりますが、小林健二さんの『ぼくらの鉱石ラジオ』に影響され、鉱石ラジオを組んでみました。 というか、この本で作り方が紹介されていた、バスケットコイルを作ってみたくて、というのが本当のところです。 このコイルは、Yahoo!オークションでも時々手作りのものが出品されていますので、同じように作りたくなる人が結構いるみたいですね。

外観は、大正14年(1925年)、ラジオ放送が開始された頃によく使われた鉱石ラジオ風のデザインでまとめています。 ただ、愛宕山の放送博物館などに展示されている、当時の本物の鉱石ラジオと比較すると、ふたまわりくらい大きいようです。 鉱石検波器とかが、私の工作精度が悪くてあまり小さく作れなかったせいですね。

正面のパネルをはずしたところです。部品はすべてパネルに取り付けています。パネルは3mm厚の黒のベークライトを使っています。 ラジオガーデンの萩原電材で購入しましたが、このお店、土日がお休みなのでめったに行く機会がないんですよね。 今でも黒いベークライトを取り扱っているんでしょうか。 ちなみに、このベークライト板、穴あけ加工前に2000番くらいの耐水ペーパを使って、表面を水で洗いながらよく磨いてあります。 表面の小傷を取るために磨いたのですが、全体にマット仕上げでレトロ調のいい感じになりました。

ケースは、桂材を図面を引いて東急ハンズでカットしてもらい、木工用ボンドと木ねじで組み立ててあります。 ウッドステインで着色後、シェラックニスを3回ほど刷毛で塗りました。素朴な感じを出したかったので、あまりニスを厚塗りにはしていません。 シェラックニスで塗装後、目の細かいサンドペーパで磨く、という工程を丹念に何回も繰り返すと、バイオリンの胴のような仕上げになります。

で、今回作りたかったバスケットコイルがこちらです。作り方の詳細は、『ぼくらの鉱石ラジオ』をご覧いただきたいのですが、 使用したエナメル線には米・アリゾナ州のAntique Electronic Supplyから購入した合成繊維巻き銅線を使っています。 とりあえず小林さんの本のとおりに作ってみたのですが、完成後インダクタンスを測定すると800μHもあります。 今回使用するバリコンは300PFほどありますので、そのままだと長波用の鉱石ラジオになってしまいます。 しかし、ほどいてしまうのも勿体無いので、バリコンには途中で何ヶ所か出したタップから接続することにしました。

バリコンは、内田ラジオで買ってきたギルフィラン型のものを使いました。 この型だと、昭和10年以前のものでしょうか。 実は、今回撮影のために久しぶりにパネルをはずしたのですが、バリコンのベークライトの部分にびっしりカビが生えていたので、慌てて一生懸命カビ取りをしました。 古い部品はどういう環境で保存されていたのかわかりませんので、こういう点には注意が必要ですね。一度、バリコンだけ外して消毒しておいたほうがいいかもしれません。

鉱石検波器は、真鍮のボールと棒材を使って製作しました。ボールを貫通するシャフトは、そのままではすぐ動いてしまうので、止められるように小さなネジを自作して付けてあります。 シャフトの柄の部分は黒檀材の丸棒で作ってシェラックニスを塗ってあります。 ボールを支える板の部分は、1mm厚の真鍮で作りましたが、コの字型に曲げるつもりがU字型になってしまいました。 検波器の先にはタングステンの探知針を取り付けてあります。 タングステンの針金は、秋葉原だと坂口電熱で扱っています。今回は0.3mmのものを使いました。

タングステンの針金は、取り扱いには注意が必要です。非常に硬いので、ニッパーなどで切ると刃がボロボロになってしまいます。私は、駄目にしても構わないニッパーを使いましたが、かなりの力が必要です。 また、切断後の針金は、大変鋭いので注意しないと指に刺さります。私も、指にタングステン針が突き刺さって痛い思いをしたことが、一度や二度ではありません。

これは、コイルのタップを切り替えるセレクターです。接点には、東急ハンズで買ってきた棚取付け用の金属製(真鍮にニッケルメッキ)のダボを使っています。 ダボの差込部分が丁度直径4mmでしたので、4mmのダイスを通してネジ山をつくり、4mmナットで裏から止めています。 つまみの部分は、前述のAntique Electronic Supplyから取り寄せた、レトロな木製のつまみを使っています。 6mmのネジ棒をシャフトにして、裏からスプリングワッシャとナット2個で止めてあります。このあたりは小林さんの本を参考にしています。

奥のほうに写っているダイヤルは、Antique Electronic Supplyで扱っているAtwater Kentのリペア用ダイヤルですが、 私は内田ラジオで買いました。誰かが輸入して内田さんのところに入れたんでしょうか。

これらの部品をパネルにマウントした様子です。配線には、角銅線と錫メッキ線に絶縁チューブをかぶせたものを使っています。 角銅線も、Antique Electronic Supplyでリペア用の部品として販売しているものです。

ハイインピーダンスの両耳レシーバは、これもAntique Electronic Supplyで扱っていたものですが、現在ではすでに廃番になっています。 ただ、ハイインピーダンスといっても、2KΩしかありません。有名なテレフンケンのレシーバだと、確か、4KΩくらいはあったはずですから、ちょっと感度不足ぎみです。 セラミックイヤホンの方が良く聞こえます。

で、最後に銘板です。このときは、サンハヤトで製造している、あらかじめ洋白板に感光剤を塗ったものを使いました。0.3mm厚で1300円くらいします。 しかも、普通のプリント基板と違いネガ現像、つまり光の当たった部分が残ります。プリント基板と比べると現像はかなり難しく、私は1枚失敗してしまいました。 金属板のエッチングなら、ラジオデパートのマルカ電機で扱っている感光スプレーを使うのが、一番やり易いと思います。

ちなみに、製作に着手したのが2000年だったので、末尾の零を取って『零式』鉱石受信機、と命名してあります。

実際に使ってみると、確かに並みのゲルマラジオよりはずっと低感度です。 ダイヤルの位置と周波数の関係を把握するまでは、とりあえずゲルマニウムダイオードで鉱石検波器をバイパスして受信しました。 鉱石検波器は、小林さんの本には、「紅亜鉛鉱」>「方鉛鉱」>「黄鉄鉱」の順で感度が良い、と書いてありますが、試行錯誤の末、黄鉄鉱を使ってあります。

確かに、紅亜鉛鉱は感度がいいのですが、鉱石の欠片ごとに感度が随分異なります。感度のいい欠片が見つかるまでが大変です。 また、設定もクリチカルで、タングステン針の圧がちょっと変わると聞こえなくなったりします。

方鉛鉱は、紅亜鉛鉱ほど個体差はありませんが、設定がクリチカルなことは同様です。折角聞こえるようにしても、時間が経つと聞こえなくなっていったりします。 また、熱に弱く、ハンダのベースの中に鉱石を組み込む際に、硫黄成分が揮発してあたりが硫黄臭くなってしまいます。

そういうわけで、これから鉱石ラジオを試してみようという方には、取り扱いの容易な黄鉄鉱をお勧めします。感度も、方鉛鉱とそれ程違いはありません。 また、鉱物標本としても見た目が美しいので、さまざまな変わった検波器も作れると思います。

参考文献: 小林健二氏 「ぼくらの鉱石ラジオ」 筑摩書房 1997年

(2004年7月9日記)



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