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つくづくやなタイトルだなぁ


ごくろうさん


  我が家はずいぶんと物持ちの良い、昔風の家庭らしく押入の奥にはいろいろなものが隠れている。
  なかには吃驚仰天するようなものもあって四次元ポケットのようだが、赤ん坊たちがオモチャで遊ぶようになった、というのでそのポケットから「ちゃららら♪」と出てきたのは、古い、プラスチックのチープな電車のオモチャであった。
  覚えている向きも多かろう、トミカのプラレールである。現在も売られ続けているが、押入から発掘されたのは三十年前のバージョンである。今のトミカは電車がちゃんと実物を模していて、どこそこの線の何型の電車だの何々型新幹線だのとリアルであるが、昔のことでもあるし、ビンボな我が家にやって来たくらいだから当然安物で、電車だと云うことは解るがどんな車両かなどまるで見当もつかぬアバウトな造形の電車が一緒に出てきた。緑一色と赤一色の安っぽいプラスチックで一体成形された無塗装の電車で、窓はくり抜かれており運転席もない。
  ウチの親が買った物ではないらしく誰が持ち込んだものか知れぬのだが、三十年前にかく云うわたしが遊び、次いで弟が遊び倒した古い品である。チープな作りは幼児向けだからなんの問題もないが、電池ボックスにはなんと電池が入ったままになっていて、金属製の接点とスイッチは見事に赤錆だらけになっていた。
  これはさすがに使えないでしょう、ということになりかけたのだったが、どういうわけか親父殿がこれをいじくり続け、元真空管テレビの修理屋たる昔取った杵柄のせいかなんと治してしまった!(すごい)。
  接点とスイッチは復活し、新しい電池を入れたチープな緑色の電車は弱々しくプラスチックのタイヤを回転させ始めた。動輪に巻かれたゴムはとっくに劣化し硬くなっていたが、こちらは無事だったレールに乗せると、じー、がたがた、ぶぃーんと走りはじめた。レールといっても陸上競技のトラック一周型になっただけのシンプルなものである。駅とトンネルと跳ね上げレールのついた踏切が付属している。跳ね上げレールに乗り上げると少しの間頑張ってしまう非力さだったが、ともかくも三十年前のプラレールは見事に復活を遂げたのだった。
  なんという物持ちの良さか、と呆れる話だが、しかしてせっかく復活したこの電車に、女の子たるわたしの姪っ子はあんまし興味を示さない。走らせて見せてもじー、と少し眺めただけで最近覚えた落書きに熱中してしまった。
  しくしく、面白くないのかしら、と少々残念であったが、しばらくして遊びに来た男の子たる甥っ子の反応は違った。
  三輪車だの散歩だのと遊び倒した甥っ子に電車を出してレールを繋ぎ、じぃじぃと走るプラスチックの車両を見せてやると、ぺたん、とそばに座ったまま、それきり動かなくなってしまった。
  目は熱心にぐるぐる回る電車を追いかけ続け、三十年の歳月には勝てないのか列車が時折脱線すると、私が手を伸ばして戻していたのをたちまち覚えて、にじりよって戻そうとする(戻せるわけではないが)。ゴハンだよ、と呼んでも食いしん坊が見向きもしない。食べ始めても心ここにあらずである。まだあまり発語しない子なので無言だが、しまいには食卓に電車を引きずってくるほどの気に入りようだ。
  さんざっぱら遊んで(眺めて)親を手こずらせた甥っ子は、もうおしまい、と云うとやっと素直に帰っていったが、片づけていると効果の割に商品のチープさは涙に暮れんばかりである。実に安っぽい。古い品だから多くは云えぬけれど、造形といい型抜きといい仕掛けといい簡単至極だ。それでも、それは現に幼児の目を輝かせ、喜ばせている優秀な玩具なのだ。三十年前、子供たち(わたしたちだ)が飽かず眺めたプラスチックのチープな電車を、今日、赤ん坊が飽かず眺めていった。この家に来たとき、この電車たちは知っていただろうか。三十年後に再び暗い箱から取り出されて、ほこりを払われ、錆を紙ヤスリで落とされて再び走り出す日が来ることを。
  片づけを終えようとすると、レールの端についた扇形の連結突起が一つ折れているのに気がついた。次に甥っ子が遊びに来る日のために、折れた部品を探し出し速乾ボンドを持ち出して丁寧に接着しておく。きっとこのレールと電車とトンネルと駅と跳ね上げ踏切は、この後も何年にも渡って子供たちの目を引きつけ、世界を学ぶその頼りない第一歩の役に立つだろう。三十年前に、ちょうどわたしたちがそうしたように。
  なんだわからぬ紙箱に丁寧にしまい込まれたそれは、タンスの上に載って次の出番を待っている。かくしてトミカのロートル列車は今日も働いてくれたのだった。

  ごくろうさま。   

ありがとう
(2004.002.25)




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