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つくづくやなタイトルだなぁ


冬の華

〜良い写真・悪い写真〜

  正月三日のことですけれども。
  その日は前夜、夜露が凍りつくほど気温の下がった翌日で、朝から十分に冷気の名残りがあたりにたちこめ、陽の光に払われる前のこの世の支配を謳歌していたンですよ。
  正月のことですから、これは前夜の酒も残っているわけで朝起きたと云っても布団にぬくぬくとくるまったまま、ことのついでに寝正月、と決め込みたいところだったのですが、何故にかふと起きて、がたぴし云う雨戸を力一杯引き開けて見た。
  ほしたら(←下総方言)あなた、目の下に遠く、華が咲いているじゃありませんか。
  コ汚ねぇ冬枯れの田んぼが霜に覆われて真っ白になっている、のはいつものこととしても、その一画、休耕田になったままの田の淵に白く、もわもわと朝日を受けて光り輝く、ダイヤモンドのような光の華があるっ!
  口あんぐり、ですわ。
  慌ててカメラをひっつかみ、急いでレンズを交換して飛び出そうとして、「いけねぇ寝間着だ」とて駆け戻り、ばたばたと着替えて田んぼに出てみると、太陽の強烈な光に暖められつつある空気の中に、白いダイヤモンドの枯れ草がしん、と立っている。
  これは・・・スグ消えてしまう。
  そう思って、ぐっしょりと夜露をすった枯れ草を踏みつつ近寄っていくと、それは誠に、朝日を受けてしいんと光り輝いている、丈の低い枯れ草に付いた氷の固まり、霜と氷とが作り出した真冬の華なのでございました。
  丈低い枯れ草が夜露に凍りつき、真っ白になったのが太陽の光を受けていっせいに輝いている。
  おぉ。白い。美しい。きらきらと光っている。
  白い息を吐きながらしばし佇み、次々とシャッターを切ってみる。


  ・・・・。
  腕がわりぃヤ(泣)
  少しも雰囲気を伝えていねぇ。なんてこったい。「風景のバランスを意図的に変えること」という構図の基本(と、思っている)がちっともできちゃいねぇ。せっかく良いカメラを手にしていながら、えぇ口惜しい。
  とはいうものの、どんどん空気は暖まってゆく。もう、すぐに冬の華は消えてしまうだろう。せめてものよすがに、アップをば撮る。撮ってみると、細部というのは、この場合要素にすぎず、キレイだけれども、全体の、あの、かすむような白く輝く幽玄さは伝えるべくもない。むぅ。
  加えて、最新式カメラのオートフォ−カスでは、このかそけき光を正確にキャッチすることは難しいらしくて、なんというか、焦点を、どこかに合わせないほうが良い写真になるんですわ。といってぼけていても困るので、ピントリングをくるくる回して、マニュアルフォーカスで心惹かれる映像を選ぶ。
  するとあら不思議。得たい映像が(光が)思いのままにファインダーの中で変化してゆく。おぅ、なるほど。写真のピントというのは、「どこかに合わせる」ものではなくて、「コントロールする」ものだったのか!  (いや、そりゃどこかには合わせるんだろうけどサ)
「光がどう見えるのか」をコントロールするのがピント合わせだったのですな。なるほど、それはオートフォーカス・システムにはとうてい不可能な芸だ。コンピュータには、映像は見えないのだから。あぁ、なんということだ。写真を撮り始めて5年目、ようやくそんなことに気づくとは。
  と、そのように考えてみると、草花のアップ写真も、風景写真も、基本的には同じものなわけですな。どちらもしゃがんだり、立ったり、腰をひねってみたりして構図を探し出し、ピントリングを注意深く回して光の状態を切り出す。おぉ。奥義を会得したかも。
  などと思いながら、くるくるとピントリングを回して枯れ草についた氷のダイヤモンドを撮っている内に、すごい速さで氷は溶けてゆき、目を上げると、白い幻想の光の森は、もう半ば以上溶け崩れて、単なる枯れ草にすぎぬ実態をあらわにしつつあるのでしたとサ。
  ほんの10分足らずの、幻のような華。
  そうして消えてゆく風景を、せめて、この目で見られたのは幸いだった、と思いつつ、もしかしたら、と思わずにはいられませんでしたな。
  それはもしかしたら、写真に残そうとするべきでない、目で見ておくべき光景であったのやも知れません。季節と時間と光が見せる、一瞬に近いような淡い美しさ。風景の中には、そういったものが幾ばくか混じっているのかも。ヒトよ、その目で見、その心で感じおけ、と誰かにいわれているような、写真の出る幕でない光景が。
  むろん写真は光のアート、切り取り、作り出すことでのみ得られる光景もありはするのでしょうけれども。
  白い息を吐きながら、冷たく澄んだ空気の中で陽光に暖められつつ、ちょいとそんなことを思ったりなんかして。
  いや写真も、目に映る光景も、奥深いですな。そんな深い光景を目にする一瞬が、皆さんにも訪れますように。朝方は、狙い目ですぜ。


宝の持ち腐れ、というお話でした。(2006.01.03)




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