わたしの部屋には、テントウ虫が湧く。
虫が部屋に紛れ込んでくる、というのは良くある話だが、それがハエでもメマトイでもユスリカでも羽アリでもなく、わたしの部屋の場合、徹頭徹尾「テントウ虫」なのだ。たぶんナミテントウである(背中に赤い星が二つある)。
なんでテントウ虫やねん、というのはわたし自身が常々思っているのだが、理由は不明だ。テントウ虫はアブラムシを食べるそうだから、テントウ虫の巣が近所にあるというより、アブラムシが近所に繁殖しているのかもしれない。
家の中にテントウ虫が巣を作る例は滅多にないようなので、わたしの部屋にちゃっかり同居していると言うことはないようだが、部屋の中に見かける機会が尋常でなく多い。ふと、虫が飛んでいるな、と思うと、それはたいていテントウ虫だし、窓の桟や床の上をちろちろ這っている虫を見つけると、それは、ほとんど例外なく、テントウ虫なのだ。
なんでやねん。嫌いじゃないけど。
餌のアブラムシなんて室内でも家の周りでも見かけないのに、いったいなにが面白くて、テントウ虫はわたしの部屋に出没するのであろうか? しかも、他の虫は見かけないのに、テントウ虫ばっかりなのは何故?
隣の畑はたしかに春先は菜の花を植えて、真っ黄色に染まるけれども、春先だけではなく、夏秋と一年を通してときどき部屋にいる。下手をすると冬にいるくらいだ(冬眠しないのかしら)。
調べてみても、一年中、部屋にいる虫はテントウ虫、なんて例は見かけない。
わたしの部屋なんぞに居ては餌もなく餓死するであろうから、見つける度に手のひらに落としたり、ティッシュでそっとくるんだりして室外の手すりや何かに移動していただき、逃亡を手助けしているが、何度逃がしても、気がつくとどこかに居たりする。
まさか同じテントウ虫とは思わないが、そう好まれたって扱いに困る。踏みつぶしたら可哀想だし、部屋の窓は閉めていることが多いから、逃げられなくて餓死する可能性は大いにある。迷い込んだ虫が餓死するなんて、可哀想でイヤだから、せっせと逃がしているが、いつまでたっても、気がつくと居る。最初は住み込みを始めたのかと思ったくらいだ。でも巣なんて見あたらないし、家に巣を作る例はあまりないらしい。第一、数年間以上に渡って定住しているなんて話は、それこそ聞いたことがない。餌がないんだから。
田圃と畑だらけの田舎だから、他の虫がときどき入り込む、ということは十分納得できるが、「テントウ虫ばっかり」というのは納得が行かない。しかも全部ナミテントウ。
害虫ではないし、悪さをするでもないから、居るのは別にいいのだが、餓死すると思うと可哀想で気になってしまう。こんなボロ部屋にいても、いいことないからお逃げなさい、と思うのだがお好きであるらしい。
たまに乾いて死んでいるのを見つけると、暗澹たる気持ちになる。なんで助けてあげられなかったのか、と思うと忸怩たるものがあるのだ。そもそも入ってこなければ、餓死もしなくて済んだろうに。
とはいえ別に招いているわけではないので、こちらとしては如何ともし難い。せいぜい、見かける度にコロンと転がして(驚いて黄色い液を漏らしてくださる)、外へ追ってやるのができるくらいだが、それでは気づかないでいる内に餓死させかねない。
例えば冬の始まりや終わりのような、寒くてほとんど部屋を閉め切っている季節でも時折、室内に見かけるくらいだから、部屋を閉めておく、というのはあまり効果がないのはわかっている。まぁ、ボロ家だから密閉性が低い、ということもあるのだろうが。
となると逆に、常に部屋を開けっぱなしにして、迷い込んできても必ず出て行けるようにするしかないのだろうが、暑さ寒さもあるのだから、それでは住人のわたしの都合がよろしくない。
室内でも元気に生きているのなら、常に迷い込んでいてもかまわないのだが、そのせいで死んじゃうのは可哀想である。
どうしたものか、と悩み続けて、もう五、六年近くになる。
(2013/12/12)
|