- 対象
対象は,ここでは鉄鋼業を取り上げたい。鉄鋼業は,鉄鉱石から製銑,製鋼,粗圧延,圧延,精成などのプロセスを含んでおり,最終的な出荷品は,自動車工業向けの薄板鋼板,造船業向けの厚板鋼板,線材,建設業務向けのH型鋼,厚板,棒鋼などがあり,これらを材料として次の製造業が待っている。であるから,鉄鋼業の製品の品質などの目標はこれらの次工程に待っている製造業からの厳しい要求がそのまま我々のシステムに対する目標となるのである。
ここで忘れてはならないことは,システムを構築するためには,制御の対象となるシステムに関して十分な知識を取得する必要が有るということである。例えば,製銑工程は,鉄鉱石,コークス,石灰石,その他各種の合金を溶鉱炉に装入して,熱風炉からの熱風を吹き込んで長時間かかって製品である銑鉄が出来上がる工程である。
我々が得意とした圧延工程は,粗圧延工程での製品として製作されたスラブという鋼鉄の塊を,加熱炉で摂氏1,300度程度に加熱し,それを粗圧延機,仕上げ圧延機で圧延して,要求される形状,寸法,強度,仕上がり温度を持った鉄板(厚板,薄板)に圧延することである。であるから,我々はこの工程を構成している種々な機械に関する知識のみならず,加熱鋼鉄に対する物性上の知識をも持つ必要があり,これらの知識を総合して,圧延システムモデルを構築し,要求されている計算機システムに含めることになる。
- 目標
目標は,通常「顧客」から与えられる。ここで言う顧客とは,我々にとっての顧客であり,鉄鋼業のエンジニアリング部門の発注主が文書にして提出する。通
常,鉄鋼業には,優れたSEを多数抱えており,彼らが,彼らの顧客である次工程の製造業〔注文主)から出される製品に対する要求を種々検討して,我々のシステムに対する要求仕様書を作成する。これ自身が,非常に高度なシステムエンジニアの仕事であり,私は携わっていないのでこれに関して記述することは避けたい。(上記のシステム工学の参考書は,鉄鋼業のSEにより記述されたものが多いのでそれを参考にして欲しい。)
しかし,鉄鋼業のように顧客のSEから要求仕様がRFP (Request for Proposal)
の形式で提出されることは,通常は少ない。提案型のビジネスのように,また,新製品開発のように,顧客,市場の求める仕様を自分たちでまとめ,顧客が固定の場合は顧客に提出してある程度の了解を得ることが可能であるが,一般
顧客が対象である商品などでは,その自らが決めた仕様は大きい掛であり,吉と出るか凶と出るかはまさに博打である。しかし,顧客に対するアンケート調査を実施し,これに対して丁寧な統計分析(多変量
解析,要因分析,因子分析など)を実施することによって,今までとは全くことなった仕様のものを顧客が求めていることを知る,推定することが可能となるのである。
通常は,顧客から業務内容を聴取して,問題点,改善点,などから,これらを解決するために必要なシステムを仕様の形で検討し,文書化し,または計算機によりシミュレーションし,デモシステムを構築し,画面
上に表示し,プリントアウトし,ビデオとして3次元のシミュレーションを行って,これを顧客に提出する。これで,顧客が納得したからといってこの仕様が了解されたと考えるととんでもないことが多い。すなわち,取りまとめの部門との対応でこの仕様の了解を得ている場合は,実際の使用部門で要求している内容と全く異なった仕様であることが多いのである。この場合,実際の使用部門も入れて仕様の了解を得ることが必要であると同時に,できる限り目に見える形でのデモを実施することと,システム構築の段階を追って順次顧客の確認を得ること,さらに仕様の変更に対して柔軟に変更が可能な形でシステムを構築してゆくことが大切である。
- システムの設計
システムの設計は,上記2.で与えられた抽象的な目標を具体的で測定可能な目標を再確認することから始まります。通
常,この目標は多次元ですから,設計段階でこの多次元の目標を最適化するというかなり困難な手法が必要です。これについては省略しますが,概要書を参照下さい。<このサイトから詳細の情報をダウンロードできます。できる限りこのHP内で閉じるように,HPの更新作業中ですので,もうしばらくお待ちください。>
設計項目を挙げます。当然,制約条件の元で選択できる設計条件を検討する必要があります。システムは,製作を完了した時点で機能すればよいというものではありません。ですから,自分の持ち分の分野のみならず,上流および下流の分野に対しても技術動向を正確に把握しておく必要があります。これを怠ると,Wintelを選択するような愚を犯します。Wintelはほんの短時間のあだ花です。向こう数年間,同じように稼働すると思うととんでもない間違いでしょう。<どうやらこの予想は1999年には的中しそうですね。もちろん,クラアントはWintelを採用するような傾向は変わらないでしょうが,基幹部門にはUNIXを中心としたWS(ワークステーション)系になるのではないでしょうか。それとも,Linuxあたりが幅を利かせるかもしれませんね。>
これは,2.目標で記述すべきことであるかもしれませんが,技術動向(将来を見据えた)のみならず,顧客の要求の将来動向を鋭いエンジニアリングゲス(engineering
guess) (要するに,勘ですね)を用いて,顧客は現在このような要求を出しているが,明日にはこのようなことを要求して,システムがそのように動作しないとクレームを付けるだろうということを想定するのです。この辺りが優れたSEと平凡なSEとの違いでしょう。私は,決してWintelを使用しませんでした。Windows
NTも使用しませんでした。OracleもAccessも使用しませんでした。HP-UXを使用し,Sybaseを採用しました。間違っているでのでしょうか。このシステムは急激な利用者の増加に対しても順調に稼働しております。CPUを増やすだけで,負荷の増加に対応が可能です。まともなSMP機能の動作しないどこかのマシンとは生まれが違います。
設計項目は,従来からのシステムの延長であるシステムを設計する場合と,全く新規なシステムを設計する場合とでは大幅にことなります。しかし,これが決められないようでは,SEではありませんね。
- 出力
これが一応設計項目を決める要素です。これは通 常,要求仕様として提出されるものであるし,現在のようなシステムでは,マンマシンインタフェースを使用した複雑な操作シーケンスを用いたものです。
これなどは,簡単なツールを使用してMMIをシミュレーションすることが可能で,しかも,そのままコードに落ちるすぐれ物があります。このようなツールは積極的に使用することが大切です。
- (伝送)通
信
以前のシステムは,ほとんど通信はBSCなどの古いプロトコルを用いて,チンタラやっていました。ところが,現在のシステムで伝送,通
信を主要な要素としないシステムは少なくなりました。ですから,これは非常に大切な要素です。
交換回線,専用線,パケット,フレームリレー,ATMこれらのいずれを使用するか,バックボーンは100MbpsのFDDIでいいのか,1Gbpsが必要か,PCとの接続は10/100自動検出のイーサネットを使用するか,直接FDDIを接続するか,TokenRingを使用するか。SNAとイーサとの接続はどうするか。悩みが大きいですね。<ぜひ,私の働いている当社に御依頼下さい。メールを頂戴すれば,担当のものがすぐに飛んでゆきます。>
- 成果/評価
評価ほど大切なことはありません。このために,設計の始めの段階で,システムの目標を定量
的な目標を設定しておくのです。システムを構築し,その結果をシミュレーションして性能,機能などの測定値を抽出し,当初定めた定量
値に当てはめて,いくつかのシステム案の中からこの評価値を最大にするようなシステムを選択するのです。
言い忘れましたが,この文章の守備範囲は,あくまでも設計の段階までです。システム構築と言っても実際にシステムを製造するのではないのです。プログラムも作成しません。システム仕様書をまとまる段階について説明しているのです。
だから,この評価の段階で,初めて構築すべきシステムの詳細仕様が「システム仕様書」の形式でまとまります。これは,飽くまでも理想的な環境の元ですが,少なくとも何も考えずに能天気にシステムを構築するのとは雲泥の差があります。皆さんのSEとしての才能を十分に注入して,Engineering
Guessもやりました。能力の限界まで使用して,将来の技術動向を,自分の守備範囲に限定することなく,上流,下流にわたって推定しました。また,顧客の要求に関しても,将来の要求の変更を想定しました。
これらの作業が理想的に実現できるか否かは別問題ですが,理想論を述べさせていただきました。これにいくらかでも沿って作業を実施していただければ,御客から叱られるようなシステム,再度構築し直す必要のあるようなシステム,暫くして負荷の増加がちょっとあっただけでも動作しなくなるシステムを構築することが無くなるでしょう。それを希望してこの文章をしたためました。
実を申すと,私の勤めている会社内のシステムを構築している人も沢山あります。段々Wintelを基幹に使用するようになってきました。非常に心配しているのです。そりゃ価格は安いですよ。でも,何回製作し直しても動かなくなるようなシステムをどう考えますか。やはり,何か考える要素が欠けていたのではないでしょうか。